クラウンノナミダ。

クラウンは正直になれない。だから、おどけ、ふざけ、笑われようとする。不器用な小心者のねじれた日常。

この2年とこれからと。

決起集会。

先輩に
「某先輩のあいさつがなかったの気づいた?」
と言われて、青ざめた。
そこに気を遣えなかった自分を恥ずかしく思った。
最悪だ。

その前に、
なんだか嫌な予感はしていた。
そもそも、楽しい決起集会になる気がしていなかった。

うまく説明できないが、事務的な決起集会にしか見えなかったというのがある。

皆が、仮面をかぶって参加しているように見えたのは、
俺の思い込みなのだろうか。

最初はつつがなかった。ように見えた。

後半、社長と対面した。
文句ばかり話している自分が嫌だった。
「なんでお前、そんなにネガティブなんだよ」
「人に変わることを求めんなよ」
と言われて、カッとした。

ごもっともだけども、社長が言う言葉じゃないだろ。
と思う。

「俺だってこんな人間になりたくはなかった。」
「そういう人間になってしまうような環境において、
 横暴な上司に山ほど振り回されて、自信をへし折られて、
 部下がどんだけ虐げられてきたか知らないから
 そんなこと言えるんですよ!」
と言ったけど、通じていたら、こんなことにはならない。
それでものし上がって来い、だと。
昇進のない俺に、それ、言う?

クラッシャー上司の下で3年も働いていたら、
どんなに前向きに頑張っていても、理不尽な理由でへし折られて、
ダメ人間のレッテルを張られて、心調が悪くても、お前のせいにしかならない。
理不尽しかなかったこの2年間。

その、職場の悪環境を全く理解しない社長。

最終的に

「皆、俺みたいになればいいんだよ!」

などと言い出した。

俺みたいにポジティブになればいい、という意味でもあるんだが、それ以上の意味もある。
本当にそういう意味で言っているのである。

“俺のような仕事力、ポジティブシンキン、俺みたいな教養、俺みたいな・・・以下略”である。

ドン引きした。

社長がこの考えで経営しているかと思うと、ドン引きした。
この会社、未来が見えないって思った。

個性も、個人の差も、適材適所もへったくれもないじゃないか。
お前の際立つネガティブポイントは悪だ、とでも言いたいようだ。
そして、俺みたいになればいい、それが正義のように語られたことに、
そんな否定に、吐き気がした。

そういう意味で言ったんじゃないよ、と言いそうではあるが、そういうことではない。

言葉は、言霊だ。

思いのない言葉は口から出てこない。
その言葉は、そのままの意味が強い。
・・・し、その言葉そのままの意味じゃないんだよ、などと、社長が言ってはいけないだろう。


「今、すごく上司に恵まれてるんだ!」
「今の会長は何も言わない。何でも好きにやらせてくれるんだ!!」

あなたはいいでしょうね。

そのせいで、社長になりたい中間管理職は媚売りのためにすべて言いなりさ!

お客さんのことなんて誰も考えちゃいない。


・・・・・


2年前、異動など知らぬわと通常以上の仕事を吹っ掛けられ、
異動前から2倍の仕事をしていた。
すでにスタートから疲れていた。

仕事はどんどん振られてきた。
終わらない仕事。
「なんでお前、そんなに仕事してんの」
と、数分前に仕事を吹っ掛けた本人に言われた。
お前、さっき俺に仕事振ったろ。

普通なら4~5人で1週間かけてやる仕事を
他にも仕事を抱える人間2人にやらせて、
「素晴らしいでしょ、俺!」と自分がすべてやったかのように
鼻高々に常務会で報告していた上司。
でも、彼は何もしていなかった。
毎回、朝までやって何とか乗り越えていたが、
限界がきて2人して遅刻した日がある。
こいつら、ほんとにダメなんですーと、つるし上げだった。
まともに仕事もできない奴らというレッテルを貼られる。

悔しくて企画書を出した。
求められたら出そうと思ってたやつだ。
今まで温めていた企画書だ。
そして、俺がずっとやりたかったことだ。

上司は自分が考えましたというように、社長にあげた。
コンセプトも、コストダウンもきちんと考えていた。
すべて無視されて、都合のいいように改変された。
わけのわからないことが下りてきたので、
仲間と一緒に社長に直談判した。

責任は俺にすべてあるかのように始まった。
それはいいとしても、
一緒に心中するつもりだ、などと嘘を吐かれて、
最終的には上司の改悪もすべて俺がやったことになった。
俺のミスはお前のミス、
お前のミスは極限まで大げさにお前のミスだ、状態だった。

3か月近く経ったころ、とにかく死にたくなっていたことは確かだ。

病気だという診断はなかったが、過労状態だとは言われた。
不健全な肉体には不健全な思考しか宿らない、と。
ま、そうだと思う。
あの頃ほどではないにしても、今も不健全だから、
健全な思考だとは思わないが…。

その時期に、新しい仕事に誘われた。
こんなめちゃくちゃな状態で、お前も続けたくないだろう?と
意味不明になだめられた。次の仕事に都合よく引き抜くためだ。
心中するといった企画をぼろぼろに使い、直すことなく、ごみ箱に捨てた。
捨て駒の俺を、墓場に持っていこうとしていた。
すでに新進ボロボロだった俺に、とどめを刺そうとしてたと、俺は思ってる。

始まる時から人が少ないのはわかっていて、
どう考えてもむちゃくちゃな内容だった。
中間管理職が、社長への媚売りのために手を挙げた企画で
出社時間も退社時間も不明瞭でクラッシャーリーダーのもとに
スタートさせるものだった。

クラッシャーリーダーには、上司も逆らえない。
意味不明でだろ?ウチはそういう会社だ。
その通りに部長が動いただけ。
それがどれだけ大変かわかっていたから、
俺は断ったわけだが、信じられないという顔をされた。

同じ時期、は家族が癌を再発した。
自分はすでに癌で片親を亡くしている。
残った親の両親も死んでいる。
俺しかいない。
逆に仕事量を少し減らしてほしいといった。

大変なのは、皆同じだ、お前だけ仕事を減らせるか。
それよりも新しい仕事を断るなんて、信じられない。
お前はできない奴だ。使えない。

と罵倒された。
とにかくこの時期は、ダメな奴だ、できない奴だ、と言われた記憶がうっすら残ってる。

あの時、兄様の電話がなかったら、
本当に足を踏み外していたかもしれない。
励ますでもなく、慰めるでもなく、
寄り添ってくれたあの言葉を、俺は忘れない。

あんなに死にたくなっていた自分は嫌いだ。

半年間逃げた。
どんどん自分がひねくれていくのが分かった。
何やったって認めてもらえないのだと思うと、
1つ1つやることがいい加減になっていったように思う。

同時に兄のところで何とか仕事をしようと必死になったし、
鬼ほど通った。
あの時間だけが、俺にとっての唯一の癒し時間だったと思う。
どんな複雑な立場であろうとも、
自分が必要とされるようなことをしていたかった。
利用していたのかもしれない、と思う。
決して相手に無理強いをしたことはないという点では胸を張れる。
謙虚でいながら、相手の求めることをしようと、一生懸命になれた。
そういう意味では、この時期から生きるバランスを取り始めたのかもしれない。

半年経った。
新企画がなかなか波に乗らず、あと3か月で目標を達成できなければ
あの企画は終わるらしいという話が耳に入った。

上司に呼ばれた。

人手が足りない、手伝ってくれと頭を下げられた。

3か月だけ、と言われた。

本当に3か月だけですね?と確認した。
ああ、といった。

嘘だった。

まず、まともに引き継ぎもさせてもらえなかった。
3か月間2重生活をした。
今までの仕事の時は、遅くまで仕事していたら死ぬほど罵倒されたのに
その企画に関しては、文句ひとつ言わなかった。
むしろ、見てすらいなかった。
ある意味、逃げられていたかもしれない。

だが、クラッシュリーダーのそれはひどかった。
いいものを作るために、昼夜は問わず、休みも問わなかった。
だが、リーダー自身は自由に休んでいた。
疲弊した。とにかく、疲弊した。

3か月超えても、俺が元の仕事に戻ることはなかったが、
企画が終わることになった。
だが、今まで以上にリーダーが燃え始めた。
疲弊してたのに、さらに疲弊して、気が狂い始めた。
俺は、文句ばかり言うようになった。

抜け殻状態になったんだと思う。

春から、今までやりたかった仕事に戻ってきた。

欲がなくなり、とても淡々としている。
頑張る気力がない。
悲しい。
文句しか得言えず、
新しいことをやろうという気持ちの沸かない自分に
嫌悪感すら抱く。

社長面談があった
「何でもいい、言いたいことを言って。」
と言われたので
「特にないです。」
と言った。
「なんで」
「いや、何を話そうかと考えたくらいです。言うことがないです。」
「なんだそれは。」
最終的に

「お前、好きなことしてキラキラしてるやつだっただろ?」
「なんでそんなに元気がないんだよ」
と言われた。

社長相手に、悔しくて情けなくて腹立たしくて泣きそうになったのはそこが初めてだ。

半年かけて、いや、この2年で疲弊して、抜け殻になってしまった、と言ったら
笑われた。
「なーにいってんだよ。」
と一蹴された。

人の悩みに大きいも小さいもない。
でも、人の苦労は人には伝わらない。伝えるものでもない。

だけど。

だけど。

何も見てない、その人に、ついていくのはもうやめようと思った。

理解してやろうという姿勢は一つもなかったから。

理解してもらいたくていったわけでもないし、
隠したくて話さなかったわけでもないのだけど、
コミュニケーションを感じなかった。

この人は信じるに値しないと思った。

見てないから。

なにも、見てないから。

見ようとしてなかったから。

で、
「皆、俺みたいになればいいんだよ!」
ですよ。

・・・・・

自分が何のためにこの仕事を始めたかすら、わからなくなっている。

そして、この会社を選んだことが嫌になり始めている。

完全に迷路だ。

涙が止まらなかった。
あんなに泣いたのは久しぶりだ。
情けない。

あんなに夢をもってこの仕事を希望し、
この会社に入って、
やりたいことを形にすべく頑張ってきたのに、
政治の道具としてしか、
今の会社では作品が扱われない。

この2年で、俺のやることの信用もなくなっちまった。

スイッチを切り替えよう。

兄様のところへ、行くんだ。